今日、今現在までに勉強した時間、約6時間。
図書館の窓からはオレンジ色に染まった景色が見える。
つ、疲れたーーー。
「さて、今日はこれくらいにしよっか」
月乃さんはあんまし疲れてないような感じ。
僕なんかはかなり狭い間隔で自販機とかに休憩に行ってたのに
月乃さんのその回数は僕より明らかに少ない。
それなのに、涼しい顔してる。
これが勉強できる人とできない人の差、何だろうな…
時間の使い方にそつがない。
休憩行くたんびに集中力を切らしてたら……そりゃね……
「だな」
シャーペンを置き、椅子の背もたれにもたれかかって大きく伸びをする慎吾。
そういえば今日は慎吾も結構がんばってたな。
無駄口も少なかったし、「休憩行こ」って誘っても「さっき行ったから」
とか言って、直ぐに視線を元に戻してた。
いつものノリとは違ってた。
静寂に包まれた館内。
………みんな、がんばってるなー。

蝉しぐれが続く、夕焼け色に染まった夏の小道を三人、肩を並べて歩く。
この時間は照り返す熱がないから昼より暑くなかった。
「和也くんは予備校とか行かないの?」
「うん、今のところは行くつもりはないかな。
なんか、固そうだし。ほら、必勝とか書いてあるハチマキ巻いて勉強してるイメージ?!」
「ふふふ、何それ、、そんなの巻いてないよー」
「どんなイメージだよ!
まあいいや、それより来週から学校で夏季補習あるだろ?!
あれ、俺たち予備校あるから行けねーわ」
「そうなの?」
「ああ」
夏季補習、来週からだったか、、僕はどうしようかなーー
みんな来るのかな?
「ねっ!どうせなら和也くんも私たちと一緒に予備校通おうよー」
「え?」
「おおー、そうしろよ。………あれ?でも和也、家庭教師やり始めたんだっけ?」
「う、うん」
「そかー、それじゃだめだね」
残念がる月乃さん。
その姿がまたかわいかったりしたりする。
……まさか僕を誘ってくれるなんて……
月乃さんにとっては何ともなしに言ったことなんだろうけど……
僕にとってはすごくうれしい。
女の子に一緒にって誘われるってのは。
………
………あれ?家庭教師??


あ、あぶねーー、遅刻するとこだったーー。
まさか先生と玄関の外側で挨拶を交わすことになるとは……
「あ、そうそう和也くん。もし私が来たとき和也くんが家にいなかったら
今の3倍の宿題やってもらうからね」
まぶしいほどの笑顔でとんでもないことを言い出す先生。
「今の量でもういっぱいいっぱいだってのに、その3倍は無理ですよ。ははは」
「ふふふ」
………
………顔が本気だ。

前回とは違い、初めから和んだ空気に包まれる。
先生に来てもらうようになって3回目、打ち解けてきたってことか。
そういえば今日、結局慎吾に相談できなかった。
先生が僕に言った「好き」という言葉の意味。
………でもまあ、よく考えたら……
僕の期待してることは違うだろうな。
こんな美人が僕を………
でも、ありえないことでも「もしかして」って考えてしまう。
男のサガってやつかな。
人間、部屋の中にこもってると想像だけが先走ってどうにもいけない。
現実はもっと後方さ。
そんな考えを頭によぎらせながら、カリカリとペンを動かす。
しかし、家に帰ってまた直ぐ勉強とは……腹減ったー。

「うん、正解!ここはもう大丈夫だね」
「はい、何とか」
「よし、じゃあ今日はここまで」
そう言って机の上を片付け始める先生。
終了時間を過ぎてるのに僕の理解力が悪いがために30分以上延長して教えてくれた。
申し訳ありませんm(_ _)m
「今日、和也くん、何か生き生きしてるね」
「え?そうですか?」
「うん」
そりゃまあ、昼間は学校のアイドルに勉強見てもらって、今は先生に……
自然とそうなっちゃうかな。
「それじゃあ、来週までにさっき言ったとこやっておいてね」
「………」
「ん?」
「……はい」
「うん」
このハンパない量の宿題は……何?
顔色が青くなる。


今日から学校で夏季補習。
約2週間、受験対策という位置づけで毎日7時間の集中授業。
講義の後、演習。この反復が続く。
………家で夏休みアニメを見ていたい…

「おはよー」
「はよー」
教室の中ではいつものクラスメイトがあいさつ交じりにいつもの喧騒を作る。
席の半分が埋まればもう声の音量を上げないと隣にいる人にさえ届かない。
声が声でかき消されて。
「おはよっ!」
席に座っていた僕は横から話し掛けられる。
僕はそっちに振り向きながら「おはよ」と返し……
「え?……何で?」
視線の先には月乃さんが立っていた。
予備校があるから来ないって言ってたのに……
「予備校じゃなかったの?」
「ん?うん、そうなんだけどね、私もこっちに来ちゃった」
「”来ちゃった”って、何でまた??」
「やっぱり………好きな人と一緒にいたいし///」
小さな声で言う。
「え?」
僕は聞こえていたけど聞き返した。
「何でもないよー!」
今度は大きめの声で投げるように言い捨てテクテクと自分の席へ戻っていった。
どこか機嫌がよさそうな。
………
好きな人と一緒にいたい……か…
……月乃さん、いたんだなそんな人が……
………
………うーーん……………何気に…残念………だったり…
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