放課後
とりあえずこれから何をすべきか考えた。
そしてその答えは割りと直ぐ浮かんだ。
そう、この状況を理解してくれるのは僕しかいない。
僕は僕を「話しがあるから一緒に来て」と持ちかけた。
「え?」と驚いている僕を僕はその手を引っ張って廊下、階段、校門と歩みを進めた。
「な、何?」
「いいから来て!」
足早に進んだので目的地にはすぐに到着した。
「来てって、……ここ僕ん家なんだけど……」
そう、僕の家は存在した。昨日と何一つ変わらないままで…
少しの間、立ちすくんだ。
「……入って!」
「入ってって、ここ僕ん家……」
また手を引っ張って誘導した。


この時間、家には誰もいないことはわかっている。
両親は二人とも働いてるし、妹は学校終わってまっすぐ家に帰ってくることはまずない。
僕は家の中にズドズド入り込み自分の部屋まで一目散に歩いた。
大きな玄関、入ってすぐある二階へ続く階段、妹の部屋、そして僕の部屋へと。
「ちょ、ちょっと待って!」
部屋の前まで来ると何だかんだ言いながらついて来たもう一人の僕が足を止める。
「ちょっとここで待ってって!」
そう言い残し部屋の中へ一人、入っていった。
何だ?こっちは気持ちがあせって落ち着かないのに……
ドアの向こうでガサガサと音が聞こえる。
……どうやら部屋の片付けをしているようだ。
………この格好…そうか今の僕はどう見ても女の子……さては気を使ってるな。
そんな必要まったくないのに。
でもまあ、無理もない。今まで一度も女の子を部屋に上げたことなんてないのだから。
仕方なく少し黙って待つことにした。
……しかし廊下は寒い。
思わず両手を腰に巻く。
この細い体だと冬は厳しそうだ。
その上スカート何かはいてるからなおさらだ。
………
「いいよ、入るなら入って」
ようやく寒さから開放される。


部屋はきれいに………大雑把に片付いていた。
「まあ、座って」
「……ここ僕の部屋」
もう一人の僕を向かいに座らせた。
そしてジーっと顔を見つめる。
「………」
「………な、何?」
うーん、これは間違いなく僕だ。
そっくりさんでも何でもない。朝からずっと観察してたけど、態度やしぐさ、癖、顔立ち…
どれをとっても僕と同じ。
いったいこれは何なんだ……
「……ねえ、君はいったい誰?」
「はぁ?………いい加減、クラスメイトの顔ぐらい覚えてくれないかな…
……そりゃ、僕は君と違って影が薄いかもしれないけど……」
「……僕のこと知ってるの?いつから?どこで始めてあった?」
「僕って、………そりゃ知ってるよ。君とは確か二年生になってから教室で……
って、……何でそんなこと聞くの?」
二年生になってからか……昼間、水越さんに同じことを聞いたら中学生の頃って言ってた。
つまり、この女の子についての記憶は人それぞれアトランダムに埋め込まれたってこと?
あーーーもう、わからん!!
答えがない答えを考えて頭がまた噴火しそうになる。
こうなったらほんとのことを自分に打ち明けよう。
……まあ、どんな応対がくるのか自分だからだいたい見当がつくけど……
「今から話すことはたぶんとても信じられないと思うけど聞いて」
真剣に自分を見つめる。
「う、うん」
「この体は僕のほんとの体じゃないんだ。ほんとの僕は君なんだよ。その君の体が僕の体なんだ!」
「………」
一瞬の沈黙の後…
「ふ〜ん、それはすごいねー、あっ!もうこんな時間!悪いけど、そろそろ帰ってくれないかな。
今日ちょっとこの後用事があるんだ」
はっ、予想通りの反応だ。
からかわれてると思い、用事もないのにあるフリをして心の中では「とっとっと帰れ!」と
唱えているのだろう。まったくもって僕らしい。
しかしこのままノコノコ帰るわけにはいかない。
こんなこと話せるのは僕自身だけだし、頼れるのも僕自身だけだ。
「信じられないのはよくわかるけど、ほんと何だよ!!お願い!信じて!!!」
「……そんな話しでからかうためにわざわざ僕の家まで来たの?
……葉月さんがそんなことするとは思わなかったな……もういいでしょ、帰ってくれる?」
悲しげな表情をしながら話す。
信じてくれる気配など微塵も見受けられない。
くそぉーー、こうなったら…
「銀行のキャッシュカードの認証番号3○24だよね。この前作ったインターネットバンクは4○55、
インターネットでエロ動画を見るために登録したユーザー情報はIDがSHIGE、パスワードが123qwe、
他には……」
「ちょ、ちょっと待ってよ!何でそんなこと知ってんだよ!!」
「だから言ってるだろ!それを決めたのは僕なんだから!!
他には……そうだ!この前、中学生と偽って映画のチケット買ったでしょ」
「だから何でそんなこと……」
………こんなやりとりを永遠と続けた。
………
「………き、君はいったい……」
「いい加減信じてくれよー」
「し、信じろって言ったって……君の言ってることはめちゃくちゃだよ」
僕しかしらない僕の秘密をいくつ上げても信じてくれない…
……そりゃそうかも……確かに今言ってることはめちゃくちゃだ。
この科学の時代、論理的根拠がない限り誰も信じてくれない。
でも、これは間違いなく事実なんだよ!
もう僕が抱いてる秘密は……
!まだあった!!!
もうこれが最後だ!!
「僕、小坂茂樹は同じクラスの清水由菜に片思いしている。
きっかけは朝、下駄箱で一緒になったとき「おはよう」とやさしい笑顔を振りまいてくれたことだ。
それ以来僕は清水さんに……」
「あーあーあーあーあー!!!///わかった!わかったよ!!
ど、ど、どうしてそんなこと……しかもそんなに詳しく…」
「信じてくれた?」
「………」
しばらく黙り込んでしまった。たぶん今、もう一人の僕は頭の中激しい葛藤を繰り広げられていることだろう。
察するよ\(_ _)
だがこのことは清水さん本人はもちろんのこと僕の友達にも誰にも言ってない。
このことは僕の心の中にだけ留めておこうと決めていたから。
「ほ、ほんとに僕なの?」
「コクンッ」
「……でも、じゃあ、いつから……その……そうなったの?」
「今朝起きたらこんな体になってた。しかもなぜかみんなこの女の子のことを認識しているんだ。
僕はこんな子知らないのに…」
今度は二人ともしばらく「う〜ん」と黙り込む。
いつ、何で、こんなことに…
「昨日の夜……確かその日学校でやな事が続いて……」
「それで部屋で星空を見上げながら物思いにふけて……」
「そしたら流れ星が瞬いて……」
「僕はとっさに願い事を……」
「あああぁぁ!!!!!」
「あああぁぁ!!!!!」
二人で顔を見合わせて叫んだ。
そうだ!!あの時、僕は流れ星に祈ったんだ!!!
「みんなから羨望の的になるような人間に生まれ変われますように☆
できればすっごくかわいい女の子に(>_<)」と!!!!
「ま、まさかその願いが叶ったてこと?!」
「そうだよ!こんなヘンテコな状況になったのは、きっとそれが発端だ!!」
確かにかわいい女の子に生まれ変わったが……
……これはほんとに喜ばしいことなのだろうか…
まるで僕だけが一晩で地球を何百回転したかのようなこの状況が…
「で、君はこれからどうするの?」
「わかんないよそんなの……」
このまま女として生きてくのか?
生けるか?
いったいこの先どうなるんだ?
不安が止めどなくよぎる。
「まあ、何て言うか……がんばって」
労いの言葉を自分からかけられる。
何はともあれ、まだ半信半疑かもしれないがもう一人の僕に少しでも信じてもらえたのは心強い。
なぜなら、信じてくれた人は僕自身なのだから…
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