店に入って1時間。
もうこの場に遠慮や蟠りといったものはなくなっていた。
みんなで手拍子と声を合わせて一気飲みを進めたり、
もはや高校生が行うべき行動の許容範囲を軽々超えていた。
僕は一人、飲んでるふりをしてやり過ごしている。
でも二人はもうすでに明らかに酔っている。
それもそのはず、
通路側の男が通りすがった店員に静かに声をかけさりげなくカクテルなどをどんどん頼んで僕たちに進める。
二人はその度、まだ飲みきってないアルコールを飲み上げる。
ジュースみたいな色鮮やかさにアルコールだということを忘れてるようだ。
特に清水さんにいたっては何を考えてかわざと服をはだけさせて、まるで男を誘っているかのような振る舞いだ。
普段、落ち着いた感じの人が酒を飲むと急変するというのは本当のようだ。
僕が密かに「飲みすぎだよ」と合図をいくら送ってもまったく聞こうとしない。
これはちょっとまずい気がする。
ニヤニヤしだした男たち。
彼らの魂胆はもう丸見えだ。
今の二人なら少しも抵抗することなく、ほいほいついて行くだろう。
………
それに気づくのが遅かった。もう僕一人ではどうしよもありそうもない。

さらに時間が過ぎると
二人はすでの酔いつぶれていた。
僕もそんな感じで振舞った。
男たちは「そろそろ」と目で合図を送りあっている。
そして「ちょっとトイレ」と全員が微妙な間隔を置いて席を立った。
同姓同士の作戦会議というやつか…
でもこちらはもはやそれどころではなかった。
「二人とも大丈夫?飲みすぎだよ」
「だぁいじょ〜うぶー、ほら、さなも飲みなさい!」
「そうだぁ−、のめーー!!」
明らかにそこら辺にいる酔っ払いの態度。
僕は店員を呼び「水、二つください」と頼んだ。
コップ一杯の水ぐらいじゃあ気休め程度にしかならないけど、とりあえず二人に飲ませた。
さて、これからどうするか…
ほんとはこの隙にトンズラするのが一番だと思うのだが…
僕一人では二人を動かすのは無理だ。
実はもう既に手は打ってある、けど…
………
「何?どうしたの?」
ひょっこり横から現れる。
僕だ。
さっき「ちょっとすぐに来て」とメールを送っておいた。
これほどにないナイスタイミング!
さっそく手で招き、耳を近づけさせた。
「とりあえずトイレに3人組の男がいるはずだから様子見てきて」
そう頼むと僕は一度は「はあ?」という顔をするが、すぐにこの状況を察してか何も聞かずにすんなり了解してくれた。
横で暴れている二人の変貌ぶりを見ればヒントは十分であろう。
その間に「ファッファッファッ」と意味の分からない不可解な声を上げる二人を制止し、帰る支度を進めた。
……しかし、酔っ払いとはたちが悪い。まったく言うことを聞いてくれない。
携帯をバックに入れてあげるとすぐに元あった場所に戻すわ、はだけた服を戻してあげると更に大胆な格好にするわ…
してほしい行動のま逆をするのはなぜ?
…立ってっていったら寝ちゃったし……
何とか支度を終えたときに僕が早歩きで戻ってきた。
「何かジャンケンしてたよ。お持ち帰りがどうとか言って」
やっぱり、というかここまでくれば当然か。
しかし”お持ち帰り”とはハンバーガーじゃあるまいし……
僕たちは机にお金を置き、二人を引っ張って店を出た。


店を抜け出したものの、この後どうしよう…
二人をそれぞれ家まで送ってくことは出来るが、酔ったこの状態で帰すわけにもいかない。
まだ僕たちは高校生、飲酒はしてはいけないことだ。
とにかくこのまま道を歩いてて警察に補導されるのは絶対嫌だから
とりあえずマッ○に入ることにした。
お腹は空いてないのでシェイクを四つ頼み、席を確保する。
まだふらふらな二人をどうにか座らせ、一度落ち着く。
ここで少し時間を潰せば二人の酔いもさめるだろう。
という僕も少し頭がくらくらする。歩いたから酔いが回ったのだろうか。
背もたれにもたれながらシェイクをストローでゆっくり飲む。
「あれ〜、何で小坂がこんなとこいんの?」
水越さんが口をとがらせて言う。
「な、何でって…」
困惑するもう一人の僕。
僕はすかさずフォローを入れる。
「小坂君は酔った水越さんを運んでくれたんだよ」
「…ふ〜ん……」
……わかってくれたのか……
「……ところでさな!なーんで私のこと”さん”付けで呼ぶのよ!麻衣って呼んでよ〜」
「あ!それ私も!これからは由菜と呼びなさい!!」
今までだらーっとしていた清水さんが急にシャキッとし命令する。
よ、呼び捨てで呼べと?!……それが僕にとってどれだけ勇気がいるかわかってほしいよ。
「わかった〜??」と顔を近づけてくる二人。
僕はその圧力に押され、引きながらコクンと頷いた。
そうすると「よろしい」と言って、それきり二人ともまた静かになった。
……この二人が酔いを覚ますまでまだ時間がかかりそうだ。
もう一人の僕は席を立ち上がりもう一度注文を取りに行った。
呼び出した時間的に晩ご飯、まだだったのかな。
訳も分からず呼び出されて………あとで誤っておくことにしよう。
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