昼休み。
う〜ん、今日はまだ美奈と一言も口を聞いてない。
また声を掛けたら無視されるのだろうか?
………
とにかく、昼一緒に食べようと誘ってみよう。
そうすれば何か前進するかもしれない。
そう思い立ち美奈の席へ向かった。
「美奈?!昼一緒に食べよ!」
「………」
……シカッティング。<−−シカトの現在進行形
でも美奈は弁当箱を机に出したまま開けようとはしない。
一応、食べ始めるのを待ってってくれたみたいな様子だけど…
「……今日も外で食べよっか」
ガラン…
僕がそう言うと美奈は椅子を引いて立ち上がった。
「………」
「………外、行くんじゃないの?」
その場に突っ立ったままでいた僕にちょこっと起こり気味の口調で言う。
「え?ああ、うん!行こっか!」
とりあえず…ようやく口を開いてくれた。


校舎の裏側。
ここはほんとに静かだ。
自然が奏でる音がちゃんと聞こえる。
長閑だー。
「……あのさ、…何で、怒ってるの?」
僕は刺激しないよう慎重な趣で尋ねる。
……いろいろ懸案なことを抱えてるし。
やましいことがあるから慎重にならざる得ない。
……先生とのことは早く解決しないと。
「ハァー、まだわからないの?」
顔を背けて呆れた感じで問いかけられる。
「うーん、………わからない」
「……電話…」
ヒントを出してくれたような雰囲気。
でもまだ、わからない。
「電話?」
聞き返すと美奈は更に顔を背けた。
「なるべく毎晩、電話で話すって決めたじゃない」
「……あっ!」
思い出した、二人で決めた二人の間のルールの一つだった!
「……忘れてたって感じね」
「……うん」
「昨日は私たちが付き合いだした記念の日よ!
………普通、こういうのって男の子から掛けてきてくれるものじゃない?
……私、ずっと待ってたのに……」
言い終えて下を向いてしまう。
し、しまったーー。すっかり忘れてたーー。
昨日は先生とのことでそれどころじゃなかったから…
かなり険悪な雰囲気。
これって結構、忘れてたじゃ済まされない?
「………」
まずい、何か、何か言わないと…
「いや、実はさ、昨日から両親が旅行に出かけててさ、何かと大変だった、っていうか…」
「え?そうなの?」
美奈は背けていた顔をゆっくりこっちに戻した。
「う、うん」
「そうだったんだ!なんだぁー、だったらそう早く言ってよー」
感じが良くなる美奈。
うまくごまかせたみたいだ。
かなり曖昧なごまかし。ちょっとでも突っ込まれたらボロがすぐ出そう。
実際は両親が家にいなかったことが理由ではなく、他の……
「だから今日のお昼はパンなんだね」
「ああー、うん」
「…………ごめんね、なんか私、そうとも知らず…和也のこと無視したりして……」
今度は悲しげな表情で謝る。
「い、いや、僕の方こそ……ごめん、約束したのに……」
「うんん、そんな理由なら仕方ないよ!悪いのは私……
あっ!よかったら私のお弁当食べて」
小さな弁当箱と箸を差し出す。
「いいよ、僕はパンがあるからさ」
「でも、それだけで足りる?」
「足りる足りる」
「ほんと?」
「うん」
すごく心配そうにしてくれる。
………
こんなにもやさしい子なのに……僕は……
肝心なことを嘘ついてる自分にものすごい罪悪感が押し寄せた。
でも……今はこのまま嘘を通した方がいい。
僕はただ単純にそう思った。


放課後。
あー、終わったーー、やっと帰れる。
「ミナー、一緒に帰ろー」
僕は「疲れたー」ってことを象徴するためにわざとフラフラした感じの口調で美奈を誘った。
「あっ、ゴメン和也!今日は由梨と帰るから…」
両手を合わせて謝る美奈。
片瀬由梨、いつも仲よくしてる美奈の友達。
「ごめんね、和也くん。今日はこの子私がもらってくから」
「ちょっとーー、物みたいな言い方しないでよー」
「ははは、ごめんごめん」
「もーー」
美奈はホッペを膨らましてすねている。
ほんとに仲いいんだな、この二人。見てればすぐわかる。
でもまあ、ちょうどいいかもしれない。一人で考えたいこともあるし。
「そっか、それじゃあまた明日」
「うん、また……」


今は18時30分前。
もうじき先生がやって来る。
僕は部屋で先生に僕と美奈のことをどう切り出そうかと考えていた。
………だめだ、思いつかない。
そもそも何でこんなことになってしまったのか?
世の中にある様々な告白の形。
僕はそれを映画やドラマの中でしか見たことがなかった。
きらめく夜空の下、男と女が愛を告白し合い抱き合う。
そんな光景が浮かぶ。
むしろそんな感じの光景しか浮かばない。
まさか、あんな喫茶店で、何の変哲もないただの何気ない会話の中で
ポロッと「好き」と言われた先生の言葉、
あれが告白だったなんて………そう思ってはしゃいだりしたけど……
それはただの「そうだといいな」という願望を現実化にしようとした、ただの妄想に過ぎなくて、
本当の本心では思いもしなかった。
でも、あれが本当の告白だったとしたら………僕はそれを受け入れる態度をとった。
………
これはまさに世に言う完全なフタマタというやつなのでは……
………まずい、まずすぎる…
改めて考え直すと今置かれている立場がどんなにずさんなのか、それを思い知る。
あーーー、どうしよーーー!!
ピンポーン
呼び鈴が鳴る。
その瞬間、体全体がビクッとして一瞬心臓が止まったかのようだった。
僕は一呼吸つき1階に下りて玄関に向かった。


「うーーん、涼しいーー。今日も外は暑いねー」
部屋に入るなり冷房の近くまで行って涼む先生。
「そうですね。何でも今日は今年の最高気温らしいですよ」
「そーなんだ。どうりで」
……とりあえず話すのは勉強が終わってからにしようかな…
そうだな、うん!その方が良い!
決して先延ばしにするわけではないぞ!物事は円滑に。
「そういえば和也くん、晩ご飯、ちゃんと食べた?」
「いえ、まだですけど…」
「……じゃあ、お昼は?」
「えーと、パンを…」
「だめじゃない、ちゃんと食べなきゃ!勉強って以外にカロリー消費するものなのよ!」
へー、そうなんだ……
………何か、この雰囲気って……
………
「よし!じゃあ今から私が作ってあげる」
……やっぱり………いや、ものすごーくうれしいんだけど……うれしいんだけど…
そんなことしてもらったら言いにくくなっちゃうだろー。
「でも、勉強前ですし。眠く…」
「大丈夫、勉強前に食べるとすっごく集中力が上がるっていうとっておきのメニューがあるんだから!
それに、勉強は今日も遅くまで見てあげるから。ね!」
屈託のない笑顔を放たれる。
そ、そんなこと言われて、そんな笑顔を見せられたら……断れないじゃないか!!
「じゃあまた台所借りるね」
結論を出せないまま一時、固まっていたら、先に進んでた。


エプロンを着けて楽しそうに料理している先生を後ろから見ている僕。
うしろめたいことがなければこれがどんなに幸せなことか……
………
いや、だからそんなふうに思っちゃまずいだろ!!
あーーーーーー。
僕は先生に気づかれないよう、静かに壊れる。
ピンポーン
ん?誰か来たみたいだ。
誰だろ?電気代の徴収?…にしては時間が遅いか。
などと考えつつ、足早に玄関に向かった。
カチャ
「はい?」
「やっほー、和也」
………美奈?
………どうして……
「どうしたの?」
「和也、何も食べてないんじゃないかと思って、…ジャン!晩ご飯作りに来たよ」
そう言って手に持っていたスーパーの袋を掲げる美奈。
………(((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル………
………ま、まずい!
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