あれから2週間が過ぎた。
8月に入っても、夏の太陽は途絶えることなく気温を上昇させ続ける。
美奈との関係はまったくと言っていいほど修復していない。
いや、修復どころかむしろ悪化したと言った方が正しいだろう。
こっちが話しかけてのそれに対する美奈の反応はいつも冷めていて……
次第に僕も自然と美奈を避けるようになっていた。
もうダメかもしれない……
………
でも、先生とは前と変わらない雰囲気で接することができる。
両親が旅行から帰ってきてからは、いつぞやの刺激的な出来事はおこならいけど……
それなりの関係を築けている、と思う
いいことだ。
そして今の僕には一番重要な勉強の方はというと………ぼちぼちかな?
内容もどんどん難しくなっていき、ついて行くのがやっと、って感じだ。
まあとにかく、今日学校に行けば夏季補習の前半も終わり
明日からつかの間のお盆休みに入るわけだ。
つかの間だけど長いお盆休み………どう過ごそうか…
5日間という微妙な期間。
………美奈との関係にけりをつけるのは、今日が絶好の日なのかもしれない。
そんなことを思いつつ髪を整え、鞄を取って家を出た。


カリカリカリカリ……
………
シャープペンを走らせる音が聞こえる。
今は数学の演習時間。
ひたすら問題を解いて……それをまた繰り返す。
うーん、わからん。
解答につまづくと眠たくなるのはなぜだろう。
今寝たら気持ちいいだろーなー。。
つい、机に突っ伏したくなる。
でも………教室の中にいる人誰一人寝てはいない。
みんな真剣に問題に取り組んでいる。……美奈も………
………さすがの僕もそれを見たら焦燥感が湧く。一人だけ置いてかれそうで……
くそ〜……
目をパチパチさせてもう一度考え出す。
複素数……虚数……iの二乗は−1………ありえない……
………
………わかった!この問題には睡眠薬の成分が含まれているんだ。
そうかー、だから眠たくなるんだーー。不眠症の人に教えてやりたいねー。
………頭が狂いだした。


日本史の時間。
ふふふ、これなら得意だ。
何たって僕はあの信○の野望に出てくる武将名を全て頭に入れたぐらいだからな。(ゲームの
北は伊達政宗、南は島津義久。ふふふ、ドーンと来い!
………
………近松門左衛門?………誰?
………
………よく考えたら……戦国時代のことしか知らなかった……


英語の時間。
I am Japanese.
I like Japanese.
I don't like English.
………


はぁーー、
やっと終わったーー。
一日ってなげーー。
机に頬をべたーっとつけ、教室の窓から外を見る。
すると赤く染まった空をカラスが2羽、自由に飛んでいた。
それがすごく悠々と見える。
うらやましい……
……さて………どうしよう。
このまま帰るか……それとも………
………
「ちょっと、樋口君!」
「ふぬぅ?」
「ふぬぅ?じゃないわよ!!」
片瀬さん?
「美奈、行っちゃったよ」
行った?……そっか、もう帰ちゃったんだ……それなら仕方ないな……
「そう、……それで?」
「それで?じゃないわよ!!!
美奈、他のクラスの男子に呼ばれてたのよ!!……たぶんその人に………」
告白される。……か。
「いいの?このままで!」
………答えを返しにくい質問だな……
「………それは……美奈が決めることだ。僕がどうこう言うことでもないよ」
「はぁ?あんたたち付き合ってるんでしょ!」
何だよそれ。わざと言ってるのか?今の僕と美奈のひび割れた関係を
たぶん一番よく知ってるだろうに……
「あのさ、僕とみな……月乃はもう……」
「あんたねぇー、……あーー、もーーじれったい!!
とにかく、たぶん校舎の裏にいるから早く行きな!!!」
片瀬さんの迫力が徐々に増す。
「わ、わかったよ」
僕はその迫力に押され、言われたとおりにした。


校舎の裏へ来てみた。
けど、人影なんかどこにもない。
……ふぅー。
ここは美奈と一緒に昼を食べた場所だな……
僕はその芝生に腰を下ろし、そのまま寝転んだ。
赤から黒へとかかるグラデーション。太陽が静かに沈んでいく。
この瞬間の空が一番好きかもしれない。
………
しばらく物思いにふけてみる。
するとなぜか気分が良くなる。
心地いい。
………
………さてと、帰ってまた勉強でもするかな……
ゆっくりと立ち上がる。
ん?
そこの角の向こうに誰かいる。
それに気づくと、何か深刻そうな感じの話し声にも気づいた。
誰だ?
少しだけ横にずれてみる。
…………美奈
美奈の顔が視界に入った。………それともう一人、男の後ろ姿も。
………片瀬さんが言ってたことは本当だったようだ。
「月乃、ずっと前かお前のことが好きだったんだ。だから俺と付き合ってくれ」
ためらいのないはっきりとした口調での告白。
自分に自信がなきゃ、こうはいかないだろう。
この男のことはよく知ってる。ていうか、たぶん学校中の人、全員が知っているだろう。
サッカー部のキャプテンでありチームのエース、それにビジュアルも良くて……
まさに言うことがない完璧な奴だ。
………ふっ、美奈とすっげーお似合いじゃないか………僕なんかより全然……
…………帰ろ………
僕は下に置いてあった鞄を取って、彼らのいる位置とは反対方向に一歩を踏み出した。
「………ごめん、あなたとは付き合えない……」
……………え?
足を止めた。
「は?どうして?」
「………好きな人がいるから……」
「誰だよそれ!……まさかあの、樋口って奴か?」
「………」
「なんであんな奴?!悪いけど、あいつに魅力なんてないと思うぜ」
「…………あなたには見えないかもしれないけど………私には見えるもん、彼のいいところとか全部」
「はぁ?訳分かんねー」
「………」
「はっ、もういいよ、じゃあな。せいぜいあんな奴と……」
彼は最後にぶつぶつ言いながら離れていった。
………美奈……まだ僕のこと………
「!……和也……」
え?……しまった、ボーっとしていて美奈がこっちへ来たことに気づかなかった。
「………聞いてたの?」
「いや、あ、…うん。……ごめん」
「………」
「………」
互いに下を向く。
………
………何か言わなきゃ。
「あのっ……」
バサッ
!!
急に美奈が抱きついて来た。
「美奈……?」
「………好き」
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