美奈は僕の胸に顔を埋める。
……暖かい何かを感じる。
………泣いているのか……
どうして?
少しずつ大粒の涙に変わっていく。
………僕も美奈を抱きしめた。
………
地平線に見える赤は上からかぶさるように黒に覆い隠されようとしていた。
取り乱していた美奈は徐々に落ちつきを取り戻していた。
「………ごめん」
そう言って美奈は僕の胸から離れた。
「うんん。……………帰ろうか」
「………うん」
………ようやく口を聞けた……


帰り道。
「ねえ、今から和也の家行っていい?」
「え?」
美奈は急に困ったことを言い出す。
今は、7時過ぎ。
今日は8時から家庭教師がある。
「ねえ?」
………家庭教師があるから……
と、言えばいいのだが………美奈の前ではなかなか口に出しにくいワードだ。
「うーん、………勉強があるから……」
「勉強って、家庭教師?」
……するどい!
「う、うん」
「ちょっとだけ、ちょっとだけ寄ったらすぐ帰るから、ね!」
ちょっとだけ………ちょっとだけ?!
「うん、ちょっとだけなら」
「よかったぁーー」
「??何で?」
「えっ、うんん、いいの、気にしないで!
あっ、ちょっとそこのゲームセンター寄ってかない?」
ゲームセンターって………僕の家に来るんじゃなかったのか??
「え?どっち?」
「いいから、すぐ終わるから、ね!行こ!」
腕を引っ張る美奈。
「わ、わかったよ」
何なんだ?


わぁー、あっついねーー。
部屋のドアを開くと中から熱気が溢れてくる。
「ごめん、すぐクーラーつけるから」
「うん」
クーラーの温度を設定ギリギリの21度まで下げる。
これですぐに涼しくなるだろう。
「あっ、適当に座って」
昨日の夜読んでた雑誌が開いたまま床に落ちていた。
僕はすぐそれを拾っていっぱいになっている本棚に詰め込んだ。
むっ………なかなか……入らない……
「ふふふ」
美奈は必死に詰め込む僕の姿を見てクスクスと笑っていた。
三角座りをしている美奈。
その横に僕も座った。
「ねえ」
「ん?」
「喉が渇いちゃった」
「あっ、ちょっと待ってって、今、ジュース持ってくるから」
「うん、ごめんね」
僕はジュースを取りに下に降りる。
………ジュースか……何かあったかな……


ちょうどいいことに買いたてのオレンジジュースがあった。
ちょっとぬるいかも………氷を入れればいっか。
………
「おまたせー」
「!!うん、おかえり!」
?何慌ててるんだ??
「どうかした?」
「うんん、別にどうも。それより、あーー喉渇いたーー」
「ああ、ごめんごめん、はい、オレンジジュース」
「ありがとーー」
ゴクゴク
……よっぽど喉が渇いていたのか……一気に………飲んじゃった……
「うーん、おいしかったーー!
あっ、もうこんな時間!この後家庭教師があるんだよね?!
邪魔しちゃわるいから、私これで帰るね!」
「え、ああ、うん」
「それじゃあ、バイバイ!!」
「ばいばい……」
カチャ
………ジュースを飲んだら帰ってしまった…………
…………いったい、何しに来たんだ??


カリカリカリ……
うーーん……
カリカリカリ……
………
「できました!」
「どれどれ…………
…………和也くん、英語苦手だよね」
「え?」
ズサッと来た。唐突に図星をつかれて。
「………はい」
「うーん、困ったねーー。さずがにそろそろこれじゃあまずいわよ」
「………やっぱり」
「うん」
真剣な顔で頷かれる。
英語………単語や熟語がどうしても覚えられない。リスニングもどうしても聞き取れない。
何でみんなはできるんだ……
「じゃあ、とりあえず今日はこれぐらいにしよっか」
「はい」
はぁー、英語かーー、まずいよなーー、どの大学でも必須科目だもんなーー。
「ところで和也くん」
改まって態度で僕を見る先生。
「はい?」
「今日、部屋に女の子入れたでしょ」
ギクゥ
………どうして?どうしてわかった??
「何で?って顔ね」
やさしくほんわかした笑顔で言う。
「えーとー」
「何気なく机の脚に貼ってあるプリクラ、ベットの下から半分ほどはみ出て落ちてる女の子用のリップクリーム、
それにこの部屋にほんのり漂う香水の香り。
………気がつかなかった?」
「え?!」
僕はそれらをすぐに確認する。
………かなり片寄せあって撮ったプリクラ………そうか、それでわざわざゲームセンターに……
それに見覚えのあるリップ、
意識すると確かに香水の香りがする……
美奈はそのためにわざわざ………
………やられた……
「じゃあ、私はこれで」
「あっ!………あの……」
「彼女と仲良くやるのよ。……じゃあね」
笑顔を残し、先生は部屋から出て行った。
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