「小嶋……君? それって……」
「………コクンッ」
恥ずかしながら小さく頷く。
………
な、なななな、何言ってるのよ!!
いきなりそんな……


何も言葉を発しず、自然と始まった対局。
まだどちらが優勢かわからない盤上には今までと違う雰囲気が漂っていた。
「…………」
パチンッ
「…………」
何だか、いつもと調子が違う。
いつもはスラスラ次の手が浮かんでくるのに……
パチンッ
「…………」
パチンッ
「…………!! しまった」
………
「………先輩の番ですよ」
「………わかってる」
痛恨の悪手。
均衡していた形勢がこれで一気に小嶋君に傾いた。

だめだ……
もう打つ手がない。
盛りかえしたけど、これ以上は……
「………負けました」
負けた……初めて小嶋君に……
「僕の勝ちです。
先輩、約束どおり……」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってよ。
どうしちゃったの急に。
小嶋君今までそんな素振り一度も見せたことなかったじゃない。
いきなりそんなこと言われても」
「ただ、先輩が気づかなかっただけです」
小柄で大人しい小嶋君。
でも今は、いつもより少し凛としている。
「でも、私、まだそういうことに興味がない……っていうか、その……」
はっきりしない言葉。
あー、もーう、どうしよう!!
なんて言ったらいいんだろう!!
「僕とは付き合えないってことですか」
「えっと、その別に嫌いとかそういうわけじゃないんだけど……
………ごめん」
「……わかりました」
ジャラジャラジャラ
何も言わずに駒を片付ける小嶋君。
「………小嶋君?」
………呼びかけても、何も答えてくれない。
「………帰ります」
「あ、うん、おつかれさま」
ガラガラガラ
ドアを開ける。
そして、下を向きながら早歩きで教室を出て行った。


「はぁ〜あ……」
夜、静かな部屋の中、机に突っ伏してあれこれ考えていた。
……まさか、あの小嶋君があんなこと言うなんて……
………
ありえないありえないありえない!!!
もーう、ありえないよーー。
……私のことをそんなふうに見てたなんて……
「………はぁ〜」
「どうしたんですか、さっきから溜め息ばかりついて」
「ん?」
小さくなっているこうたろう。
机の上に転がっているえんぴつで遊びながら無邪気に尋ねてきた。
「何でもないわよ、子供は早く寝なさい」
「??」
あまりにもの無邪気な少年に構うのは果てしなく疲れるので軽く流した。
………
…………はぁー。
これ以上考えてもしょうがないわね。
……もう寝よ。
………
「あ! まだ寝ちゃダメですよ!!
昨日の勉強の続きをしなくちゃいけないんですから!!」
………うるさいガキね(イライラ


「えーーー、告白されたーーーー」
「しーーー、藍子、声が大きいって」
「あ、ああ、ごめんごめん」
「……もー」
「それでそれで、どうしたの?」
「どうしたのって?」
「もーう、とぼけないでよ!! OKしたの?」
興味津々と言わんばかりに目を輝かせ聞いてくる藍子。
……いつもは私の話しにこれほど食いつかないのに……
「………ごめん、て言った」
「えーー、なんでなんでーー??」
「なんでって……
私、そういうのあんまり興味ないもん」
「興味ないってあんた!
いくつになったのよー、もう14でしょ。
男の子のこと意識したりしない?」
「……別に、興味ないものは興味ないもん」
「はぁー、まだ子供ね、千鶴は」
「……子供だもん」
キーンコンカンコーン……
チャイムが鳴り響く。
「この話しはあとでじっくり」
「えーー、もう終わったわよ」
「まだよ」
そう言い残し、藍子は自分の席へと戻っていく。
はぁー、しゃべるんじゃなかった……
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