………

「さてと、それじゃあ私そろそろ寝るわ。
おやすみーーこうたろーーー」
バサッ
「待ってください!今日のテストの問題、復習しなくて
いいんですか?」
「んーーー、いいのいいの!」
「だめです!
復習というのは、その日の内にやるのが一番なんですから」
「そんなの明日やっても同じだって」
「違います!
記憶が新しい内にやってこそ意義があるんですから」
……うるさいガキね。
「千鶴さん!」
………無視しよ。
「千鶴さん!!
起きてください!!」
こうたろうは私の布団をめくる。
「何すんのよ!!エッチ!!」
「何言ってるんですか。勉強です、勉強」
「もーう、うるさいわねー。
わかったわよ、やればいいんでしょ、やれば」
「はい」
ハァー、めんどくさいわねー。

………

「ねえ、ここわかんない」
「ああ、因数分解ですね。
それはですね、力技でやるんじゃなくて先ほど教えた公式を使えばいいんですよ」
「ふーん。
で、どうやるの?」
「え? ですから先ほど教えた公式にあてはめて……」
「だから!
それがわかんないって言ってんのよ!!」
「………千鶴さんって、あんまし賢くないんですね」
ムカッ!!
また、無垢な瞳で問いかけられる。
悪気はないんだろうな、子供って正直ね。
パチンッ
「いてっ!!」
小さくなってるこうたろうのお腹にめがけて、デコピンならぬハラピンをくらわす。
「な、何するんですか?!」
「もうちょっと言葉に気よつけようねー」
とびきりの笑顔で言う。
「ブツブツブツ」
こうたろうは顔を背けて何かブツブツ言ってる。
あら、すねちゃったかしら。
そして……
「ちょっと待ったーー!!」
飛んで行こうとするこうたろうをハエたたきの要領ではたく。
「イッてーーー!!
な、何するんですか!!!」
はたかれたこうたろうは机にたたきつけられ半べそかきながら怒る。
あら、ちょっとやりすぎたかしら。
「ご、ごめん、大丈夫だった?」
「大丈夫なわけないですよ!!」
「あはは、ごめんねー」ヨシヨシ
頭を軽くなでてあげる。
「で、どこへ行くつもりだったのかな?」
「え? 神殿に帰ろうかと」
やっぱり!!
帰るつもりだったのね、危ない危ない。
まだまだこうたろうを利用するんだから。
……それにしても……神殿って……
ドラゴン○ールに出てくる神様の神殿みたいなとこかしら…
なんだか、話しの感覚が狂うわね。
まあいいや。
「こうたろう。
お願いだから黙って帰らないでね。
だって……もし、もし、こうたろうがいなくなったら私……」シクシク
「千鶴さん?」
「う、うっ……」シクシク
「わ、わかりました。
黙って帰りませんから、顔を上げてください」
「ほんとに?」
泣きそうな顔でチラッとこうたろうの方を見て尋ねる。
「はい」
(  ̄ー ̄)ニヤリ
バカね。
この泣き顔はあんたを留めておくための布石よ布石。
そうとも知らないで。
これで勝手にいなくなるってことはないでしょう。
「じゃあ、今日はもう遅いから勉強はこのくらいにして寝ようか」
「え? でも、まだ全部終わって…」
「もう十分やったわよ」
「………わかりました。
では、今日はここまでということで」
「はい、おやすみ」
「え?」
間髪入れずに電気を消して布団に入る。
「お、おやすみなさい……」


「千鶴、どうしちゃったの?
あんたがこんな点取るなんて……明日雪かしら」
「ふ、覚醒したのよ覚醒」
「……バカは取れてないみたいだけど」
「むっ。
藍子ちゃ〜ん、そんなこと言ってると次のテストで学年トップの座奪っちゃわよー」
「ご自由に」
「むむっ」
奪えるわけないって思ってるわねー。
でも……
「フフフフフ」
「だから何よその笑みは」
「フフフフフフフフ」
「…………?」
「ま、とりあえず、テストは終わったことだし……」
「部活?」
「うん」
「あー、来週、大会だって言ってたっけ」
「そうよ。 今度こそ優勝するんだから」
「そう、がんばってね」
「ありがと、じゃね」
「ばいばい」

「大会って、将棋の大会ですか」
藍子と別れて、少したったらこうたろうが胸パケットから顔を出す。
「そうよ、次の日曜日。
だから、今日はガンガン指さなくちゃ」
「何だか、気合入ってますね」
「もちろんよ!!
前回は三位だったから、今後こそ優勝よ!!」
そう言いながら、こぶしを天高くかかげる。

ガラガラガラ
「小嶋君!! って、あれ?」
部室のドアを開けたが……小嶋君はまだ来ていないみたいだ。
「遅刻かしら。
しょうがないわね、こんな大事なときに。
来たら、叱ってやらなきゃ」
「その情熱を勉強に向ければいいのに……」
「はぁ? なんか言った?」(`_´メ)
「………いえ、何も」
「でもどうしよう。
小嶋君がいないんじゃ相手がいないわ」
「僕でよければ相手になりますが」
「え? ああ、あんた将棋指せるんだったわね。
いいわよ、相手してあげるわよ」
「……そのセリフ、僕が言うのが適切だと思うんですけど……」
「はぁ?」(`_´メ)

「じゃあ、こうたろうが先手でいいわよ」
「わかりました。
では、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
パチンッ
静かな教室内に駒の音が木霊する。

「…………」
「さあ、こうたろうの番よ」
「……………ま、負けました」
「はい、案外粘ったわね」
「……………」ブツブツブツ
ふふ、ブツブツ言ってる。
まさか負けるとは、って顔ね。
甘いわね、こうたろう。
子供が大人に勝てるなんて、そうそうないのよ。
ふふふ。
まあでも、意外と強かったけどね。
ガラガラガラ
「すいません、遅く……」
「遅い!!」
すかさず怒鳴る。
この世に言い訳なんて言葉は存在しないのよ、うん。
言わせてあげない。
「30分遅刻ね。
じゃあ今日はその倍の時間延長だから」
「……はい」
「まったく、大会が近いって言うのに……
延長じゃなくて、私に一度でも勝つまで帰さないってもいいかもね」
「……はい。
って、あれ? 今まで誰かと指してたんですか?」
駒が終局の状態で並んでいる将棋盤を見て言う。
「ああ、これは……えーっと。
一人でやってたのよ、一人で」
「ああ、そうなんですか……
へー、何だかすごい並びですね。
始めから見てみたかったな」
「そ、そう?
まあ、それは置いといて……
とりあえず、打つわよ、ささ、座って座って」

パチンッ
「…………」
この局面……油断したら負けるわ。
小嶋君、強くなってるじゃない。
………
「…………ん?」
なんか……
「どうしたの、さっきから私の方チラチラ見て」
「え? あ、いえ、何でもありません////」
「? 変なの」
っと、だから油断したら負けるんだったわ。

「ふぅー。
………もうこんな時間。
じゃあ、今日は次で最後にしよっか」
「…………」
「小嶋君? どうしたの?」
「………次の勝負…」
「ん?」
「次の勝負、賭けをしませんか」
「賭け? 何の?」
「もしも僕が勝ったら……」
「? 勝ったら?」
「僕が勝ったら………僕と付き合ってもらえませんか?!」
「……………はい?」
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