約束の時間の30分前に約束の場所に着いた。
先生は………まだのようだ。
いきなりデートに誘われて、どうしていいか分からず「はい」と頷いてしまった僕。
まあ、今になって冷静に考えても、あんな綺麗な人に誘われたら断る理由なんてどこにもないのだけど…
何で僕なんかと……
思い当たる節がまったくない。
むしろ嫌われる節なら見当たるんだけど……僕のよからぬ視線に気づかれていたとは……迂闊だった…
うーーん、それなのに何で??
まさか、昨日僕の勉強見てて「こいつは天才だ!」とか思ったのか?!
………はっ、んわけないか。
昨日やってたとこなんてまだ基礎中の基礎のとこ。
むしろ「この時期にまだこんなとこ出来なかったの?!」とか、思われてそう。
……ていうか、そっちの方が自然な気がする。
そもそもあの先生は偏差値60を軽く超す超有名大学に通ってるって親が言ってたっけ。
そんな人の周りには天才と呼ばれる人なんてうじゃうじゃいるだろうし
将来、政治家や社長になって巨万の富を得る人なんてのもいるんだろうな。
僕は………年収300万未満のうだつの上がらないサラリーマン?
…
……
………はぁー。
「勝手に想像を膨らまして、勝手に落ち込んでるって感じね」
誰だよ、人の心を勝手に読む奴は……
「って!先生!!!!」
「おはよ」
いつの間にか僕の横に立っていた先生。
「い、いつからいたんですか?!!」
「うーん、けっこう前からかな」
けっこう前からって、もしかしてその間、ずっと観察されてた?
やべーー、変なしぐさとかしてなったよな??
「き、着たらな着たで声掛けてくださいよ!!」
「じゃ、行こっか!」
む、無視ですか…
「ほら早く!」
「え!ちょ…」
せかされ、腕を引っ張られる。
「ど、どこ行くんですか?」
「ふふふ、内緒。。」
な、内緒って……
引っ張られたことでくずれた体勢を立て直し、先生の横に並ぶ。
すると先生は掴んでいた僕の腕から手に握りなおした。
い、今僕は先生と手をつないで歩いている。
先生の温もりが肌に伝わる。
あ〜、女の人と触れ合うなんて……僕の人生で始めての体験かもしれないぞ…
しかも美人ときたもんだ!
何だか横切っていく人たちみんな、僕たちを見ていく気がするぞ…
また顔が緩む。
それを必死に引き締める。
まったく、僕は顔の筋肉を鍛えるつもりなんてないのになぁ〜

先生が連れてきたところは映画館だった。
何の変哲もない……
何だ、どこに連れて行かれるのかと思ったけど案外普通だな。
しかしどの映画も混んでいる。
夏休みだし、注目映画も目白押しということでだろうけど…
ちょっと来る時間が遅かったな。
「どうします?」
上映映画の案内板を見ながら先生に問いかける。
「これにしよっか。空いてそうだし」
先生が指したのは……洋画か…
どんな映画何だ?聞いたことないタイトルだけど…
まあ、この際何でもいいや。
「いいですよ」
僕たちはそのままチケット売り場へ向かった。
………手は握ったままで……


んーー
どんな内容か知らずに入ったけど……
この映画……
教師と生徒の禁断の愛。
…
……
そのテーマはまずいだろ。。
僕と僕の隣に座っている先生との関係に似ても似つかないこともない。
いや、愛も何も、まだ何も始まってないわけだけど……
こうして一緒に映画を見ているわけだし……
付き合ってるか付き合っていないかっていったら……
いやいや、今どきそんな一緒に映画を見るくらいで……
でも………
また僕の頭の中で妄想という戦慄の舞台で激しい戦いが繰り広げられる。
すると映画は邪な方向へ。
教師と生徒が普通に会話してると思ったら何の前フリもなくいきなりキスをしだす。
そしてそのままベットイン……
おいおい、何でその流れでそうなるんだよ!
むちゃくちゃだろ!!
こ、これだから洋画の恋愛映画は……
今、スクリーン上ではあの行為を……
…
変な声が館内に響き渡る。
……
………せ、先生はいったいどんなこと考えて見ているのだろう。
チラッと横目で様子を窺うが………これといった変化はない。
ただ平然と映画を鑑賞している。
僕はもう居た堪れなくなってきてるというのに…
だいたいどうして僕と映画なんか……
まじめな話し、僕に他人と比べて傑出したところなんて備わっているとは思えないし…
それに先生と顔を合わしたのはまだ3回目だぞ。
たったそれだけで見抜けるわけなんてないじゃないか…
………いったい先生は何を考えているんだ…


「ふぁ〜、外はあっついねー」
先生は長時間座って硬くなった体をほぐすかのように両手を上げて大きく伸びをした。
「そうですねー」
僕はそれとは対照的に、両手を下にだら〜んと垂らし腰を曲げた。
なげーんだよあの映画!!
くっつく、くっつかないをいったいいつまでやってんだ!!
友達同士で見に行ってたらまっさきに寝てただろうな。
「ん?どうかした?」
「いえ、何でもありませんよ。ははっ」
僕はシャキッと背筋を伸ばした。
つまらないような態度をとったら、それは大失態だからな。
「さて、次はどうします?」
「うーん、とりあえず暑いからどっか涼しいとこでお茶しよっか」
「はい」
ためらいのない返事。
夏の真昼はほんとにあっつい。
僕は早く冷房がガンガン効いた場所へ行きたかった。

チャララン
近くの喫茶店に入ると直ぐに涼しげな音で迎えてくれる。
そして……
あ〜、この冷えた空間。
そこへ一番初めに足を踏み入れたときの気持ちよさ。
それはここを天国だと錯覚させる。
「涼むのは席に座ってからにしない?」
幸せをかみしめながらその場に立ち止まっていたら先生が後ろから声をかけてきた。
僕は慌てて空いてる机を探した。
くそぉー、失敗したー、デート中はこういったさりげないときのてきぱきした行動力が大事だって
昨日予習したデートバイブルに書いてあったのに……
「ここ空いてるよ」
………失敗したーー。

何はともあれ席に着いて落ち着く。
そして注文したカキ氷をむさぼる。
にしても、こういう店で食べるカキ氷はなぜこんなにおいしいのだろう。
氷がシャキシャキしてて食べやすい。
この頭にツーンとくる感覚、……夏だねーー。
テレビでは高校球児たち白球を追いかけている。
甲子園の地方予選も大詰めかー。……夏だーー。
「ふふ、何一人でしみじみしてるの?」
「え?いや、…おいしいですね、ここのカキ氷」
「そうだね」
一方の手で片方の髪を耳の後ろにやり、もう一つの手でゆっくりと一口づつ食べている先生。
…
……
………おもわず、その美しさに見とれてしまう。
「ん?何?」
「え、……いや…」
慌てて視線をそらす。
「あ、あの……」
「何?」
「どうして僕とデートなんか……」
聞くまいと思っていたが、何となくつい聞いてしまった。
「好きだからだよ」
「え?」
「和也君が好きだからデートに誘ったの」
…
……
………これは夢か、幻か……
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